「適当なことを吹き込むなよ、狸め」
泰吉を牽制する風夜の声も、冷たくて乱暴だ。
「泰吉さんがおっしゃっていることは、勘違いでは……」
「そんなことないですよ。その証拠に、今日の風夜は随分機嫌がいいです」
泰吉がニヤニヤしながら言うが、由椰には無表情の風夜が不機嫌そうにしか見えない。
だが、風夜は特に文句を言うこともなく、食事処まで着いてきた。
泰吉が由椰と風夜を連れて行ったのは、座敷の個室がある和食の店だった。
「せっかくなので、一番いいランチ定食にしましょう」
メニューの字が読めない由椰が困っていると、泰吉がそう言って注文をしてくれる。
しばらくすると、天ぷらや刺身、お吸い物などが載った豪華な食事が出てきて、由椰は目を瞬かせる。
「まるでお城の将軍様のお食事ですね。こんな豪華なものを、私が食べても良いのですか?」
「もちろんです。たくさん召し上がってください」
泰吉に言われて、由椰は豪華な料理をひとつずつ噛みしめるようにして味わった。