泰吉の言葉が俄かに信じられない。由椰がそろりと横目で風夜を見ると、

「適当なことを言うな、狸」

 かなり棘のある攻撃的な言葉が返ってきた。眦をつりあげて泰吉のことを睨む風夜は、随分と不機嫌そうだ。

 泰吉と風夜は、顔を突き合わせると、些細なことでよく言い合いをする。たまにそれが喧嘩に発展することもあって、それを仲裁するのは風音や烏月の役目だ。

 仲裁役のふたりがいない今、泰吉と風夜が喧嘩をはじめてらどうすればいいのだろう。由椰はふたりの間でハラハラとした。

「泰吉さん、風夜さんは怒っておいでなのでは……」

 由椰が泰吉に近付きこっそり耳打ちすると、泰吉がククッと笑う。

「大丈夫ですよ、由椰様。あの男は、ツンデレなのです」
「ツン、……? なんですか?」

 またもや、よくわからない言葉を口にする泰吉に、由椰が眉を下げて首を傾げる。

「あの澄まし顔の鴉も、由椰様のことが好きだということです」
「え……?」

 由椰が信じられない気持ちで振り向くと、風夜が紫の瞳でギロリと睨んできた。その目を見る限り、風夜が由椰を好きだとは思えない。