泰吉と風夜に連れられて二神山を降りた由椰は、山の麓に広がる景色に目を見張った。

 由椰が麓の村で暮らしていた頃、神無司山から二神山まで続いていた田畑や畦道が全てなくなっていたからだ。

 田畑の間ににぽつぽつと間隔を空けて立っていた木造の平屋はひとつもなく、あるのは奇妙な形の家と、四角く背の高い建物ばかり。それらが、土地全体に覆ってひしめくように建っている。

 馬や牛が荷台を引いて歩いていた道の上は、なにか土よりももっと頑丈そうなもので固められていて、その上を車輪のついた妙な形の乗り物が行き来している。

 由椰が呆然と見ていると、「あれは車という乗り物です」と、泰吉が教えてくれた。馬よりも速いスピードで走り、国中どこへでも行けるらしい。

 道行く人々も、由椰のような着物ではなくて、泰吉や風夜が着てきた動きやすそうな格好をしていた。

「最近はみんな、着物と草履ではなく、洋服と靴を身に付けるんですよ。由椰様はどうされますか?」

 今朝、出かける由椰の準備を手伝ってくれた風音がそう言って、一枚の布で作られた「ワンピース」というものを見せてくれた。

 風音に勧められるままに身につけてみたが、ワンピースは、首周りも腰回りも、裾の広がった足元もスースーとして、どうにも心許なかった。