「そうだとしても、人里に行くのは危険だ。泰吉ひとりなら、麓まで一走りだろうが、人間を連れていてはそうもいかない」

 烏月は泰吉の提案を快く思っていないらしく、ずっと渋い顔をしている。

 由椰との約束を守り、人里から運んできたものを口にすることや祠への捧げものは以前よりも柔軟に受け入れるようになった烏月だが、外の世界自体を受け入れているわけではないのだ。

「わざわざ由椰本人が人里まで降りずとも、泰吉が屋敷に持ち運ぶものだけで不自由はないだろう。今の状況に不満でもあるのか?」

 烏月の不機嫌なまなざしに、由椰は「……、いえ」とやや委縮してしまう。あまり余計なことを言って、烏月がまた屋敷の奥から出てきてくれなくなっては困る。

「お鍋もケーキも食べ終わりましたし、そろそろ片付けますね」

 烏月の許可が下りなかったことを少し残念に思いながら、由椰は空いた食器を集めて重ねた。それをお盆に載せて立ち上がろうとしたとき、

「では、おれもお供しましょうか」

 コーヒーを啜りながら黙って話を聞いていた風夜が、おもむろに口を開いた。

「兄様……?」

 風音はもちん、由椰や泰吉も、いつもスンとした顔で座っている風夜の発言に驚いてしまう。