「烏月様がお許しくださるなら、オレはいつでも喜んで由椰様を人里にお連れしますよ」
泰吉がそういうのを聞いて、由椰は上座に座る烏月をじっと見つめた。
「烏月様、よいでしょうか」
「知らん。泰吉、適当にそそのかすな」
「オレは別にそそのかしてなんかいませんよ。最近、由椰様が料理に使う材料を自分でも見てみたいとおっしゃっていたので、ただ、お誘いしただけです」
「それをそそのかしているというのだろう」
烏月が泰吉をぎろりと睨む。
「そうは言いますけど、烏月様はこのままずっと由椰様をこの屋敷の中だけに閉じ込めておくおつもりですか? 便利になった人の世を見れば、由椰様の心に現世への未練が生まれるかもしませんよ。そうすれば、由椰様の魂も人の世に戻ることができるかも……」
泰吉の説明に、由椰はなるほどと思った。
たしかに、烏月の屋敷で料理をするようになってからの由椰は、現在の人里で食べられているものが以前より気になっている。
この前、泰吉が人里から仕入れてきてくれた料理本にも、由椰が見たことも食べたこともない料理がたくさん載っていた。
そういうものを見て、現在の人里の生活について知れば、由椰の中にも人の世に戻って生まれ変わりたいという想いが湧いてくるかもしれない。