「一瞬、おれも見誤りかけたが、この娘の瞳の色は、伊世とは左右が違う。それに、伊世とは魂の気配も異なっている」
「でも……、オレはこの娘から伊世様の気配を感じます。この娘は、ほんとうに伊世様の生まれ変わりではないのですか?」
「泰吉、さっきも話したとおり、神は一度姿が消えれば、蘇ることも生まれ変わることもない。僅かばかり伊世の気配を感じるのは、姿を消す直前の伊世がこの娘になんらかの加護を施したからだろう」
烏月はそう言うと、由椰のほうに一歩進み出た。烏月の左耳で、瞳の色と同じ金の耳飾りがきらりと光る。
「さて、尋ねるのが遅くなったが、お前は何者だ。なぜ伊世の気配を纏い神無司山の洞窟にいた?」
烏月に問われ、由椰は身体が魂ごとビリッと震えるような感覚がした。目の前に立つ人で非ざるこの男は、なにか強い力を持っている。それを肌に感じながら、由椰は静かに一呼吸した。
「私の名は、由椰と申します。麓の村の長の命により、神無司山の土地神様に魂を捧げに参りました」
「魂を捧げに......?」
訝しげに眉を寄せる烏月たちに、由椰は「はい」と澄んだ声で答える。
「神無司 山の生贄に決まったときから、覚悟はできております。私のことはいかようにしていただいても構いません。その代わりに、日照り続きで枯れかけている麓の村に雨を降らせていただけないでしょうか」
床に額を擦り付けるようにして由椰が頼むと、さらに一歩進み出てきた烏月が、紫の袴の裾を少し持ち上げ、由椰の前に膝をついた。