母が亡くなったあと、由椰は村長の家で満足な食事も与えられず、少量の食事もひとりきりで食べていた。それはとても味気なく、何の満足感も得られなかった。けれど、誰かと笑い合いながらとる食事は、満足感と幸福感に満たされる。
鍋を食べ終わると、泰吉が白い紙の箱に入ったケーキを持ってきた。
「お茶を淹れますか?」
由椰が席を立とうとすると、
「ケーキには、紅茶かコーヒーですよ。由椰様」
泰吉がいたずらっぽく笑う。
それから、炊事場の戸棚から不思議な形の機械を取り出すと、濃い茶色の「コーヒー」を淹れてくれた。器も、由椰がいつも日本茶を淹れる湯呑ではなく、持ち手のついたお洒落な洋風のカップだった。
初めて飲んだコーヒーは、苦くて由椰の口になれなかったが、甘いケーキにはよく合った。
「今の人里には、私の知らないものが本当にたくさんありますね。私も一度、見に行ってみたいです」
由椰が軽い気持ちでそんな言葉を口にすると、
「じゃあ、今度一緒に行ってみますか?」
泰吉が烏月のほうをちらっと見ながら誘いかけてきた。
「いいのですか?」
キラリと目を輝かせる由椰を見て、泰吉がニヤリとする。