「烏月様も来られてたんですね。ただいま戻りました」

 勢いよく炊事場に入ってきた泰吉は、小上がりに座る烏月に気付くと一歩身を引いて恭しく頭を下げる。

「おかえりなさい、泰吉さん」
「今日も大量だな……」

 由椰と烏月が声をかけると、泰吉は嬉しそうににこにことした。

「はい。今日は特にいいものがいろいろ手に入ったので。由椰様。今日は野菜や肉のほかに、葡萄を持ってきました。それから、こんなものも……」

 泰吉がにこにこしながら、白い紙箱を烏月の座る小上がりの畳の上に置く。

「これは何ですか?」
「開けてみてください」

 泰吉に言われて由椰が箱を開けると、中には赤や紫や黄色の果物が載った西洋菓子がいくつも入っていた。つやつやと光る果物は宝石のように美しい。

「綺麗ですね。まるで宝箱を開けたようです」

 きらきらと目を輝かせる由椰を見て、泰吉がククッと笑う。

「これはケーキですよ」
「ケーキ……?」

「甘くてとてもおいしいものです。おやつの時間や食事のあとのデザートとして食べるんですよ」
「そうなのですね。昨今の人里には、綺麗でおいしそうなものがたくさんあるのですね。このまえ、泰吉さんが持ってきたくださったパンもおいしかったです」
「それはよかったです」

 泰吉が人里から持って帰ってきたものを見せてもらっていると、風音と風夜がやってきた。

 由椰が大鳥居の外に出て以来、風音が由椰のそばを離れることはなかったが、今日は風夜とともに実家に呼ばれて烏月の屋敷を離れていたのだ。