大鳥居の外へと抜け出した由椰を屋敷に連れ戻して以来、烏月はこんなふうに気まぐれに由椰の前に姿を現すようになった。

 由椰が泰吉が人里から運んできた食材で料理をしていると、音もなくふらりとやってくる。そして料理ができあがると、和室の座卓に座って食事をとっていく。どうやら烏月は、「消えたいと願わないでほしい」という由椰との約束をきちんと守ってくれているらしい。

 由椰はそのことがとても嬉しかった。 

「烏月様、味をみていただいてもいいですか?」

 小さなお椀に鍋の汁を少し掬うと、小上がりに座る烏月に運ぶ。烏月は差し出されたお椀を無言で受け取ると、そこに入っていた汁を一気に飲み干した。

「いかがですか?」
「……、うん」

 金色の目をわずかに細めてうなずくその顔を見れば、味は悪くないらしい。

「ありがとうございます」

 お椀を受け取りながら由椰がふっと微笑むと、烏月が少し顔を背けて目を伏せた。そのとき。

「ただいま戻りました!」

 廊下を騒がしく駆ける足音が聞こえ、泰吉が炊事場へ飛び込んでくる。