「美味そうな匂いだな」

 由椰が料理をしていると、炊事場の入り口から烏月が顔をのぞかせた。

「なにを作っている?」
「鶏団子のお鍋ですよ」

 ぐつぐつと煮立ち始めた鍋の中に野菜やきのこを入れながら由椰が振り返ると、烏月がそろそろと台所に入ってきた。そうして由椰の隣に立つと、ほかほかと湯気の立つ鍋を横から覗き込んでくる。

「……、モチは入れたか?」

 ボソリとつぶやく烏月に、由椰が首をかしげる。

「烏月様は、鍋にお餅を入れるのがお好みですか?」
「鍋に入れなくても、モチは好きだ。甘く味をつけたのも、そうでないのも」
「そうなのですね。では、お餅もあとでいれましょう。あまり早くいれると溶けてしまうので」
「そうか……」

 烏月は由椰の言葉におとなしくうなずくと、鍋のそばから離れて小上がりに軽く腰かけた。そこで腕組みしながら、何をするわけでもなく由椰が料理するのをぼんやりと眺めている。そんな烏月に、由椰は料理を続けながら話しかける。

「甘く味をつけたお餅がお好きでしたら、ぼたもちはどうですか?」
「ぼたもちは、供物の中にあることが多くてよく食った。今まででいちばんうまかったのは、三百年ほど前に神無山に備えられていたぼたもちだな。力の弱った伊世を見舞ったときに分けてもらったが、うまかった」

「そのぼたもちに敵うかはわかりませんが、私もぼたもちは得意です。今度、泰吉さんに小豆を運んできていただいてお作りしますね」
「ん……」

 烏月の返事は短く素っ気ないが、由椰の申し出をいやがっているというわけではなさそうだ。