「あなたがいなくなれば、人の世に還ることのできない私の居場所もなくなります。だから烏月様、あなたも消えたいなどと願わないでください。私と約束してください」

 由椰のことを真顔でじっと見つめていた烏月が、やがて、ふっと表情を和らげる。初めて見る烏月の優しい顔に、思わず由椰の胸がドキリとする。

 俄かに頬を赤らめた由椰に、烏月がふっと笑ってみせた。

「お前は、変わらずおもしろいな」
「え……?」

 首をかしげる由椰に、烏月が「いや……」と濁して首を横に振る。

「ともかく、中に入れ。ケガもしているだろう。風音に手当てをしてもらえ」
「待ってください、烏月様。私との約束は……」

 はっきりと答えを返さないまま屋敷に入ろうとする烏月を由椰が呼び止めると、烏月が振り向いて眦を下げた。

「心に留めておく」

 肩越しに振り向いた烏月の表情に、ふと、由椰の胸になつかしさが過ぎる。その理由を考えかけたとき、

「由椰様っ……!」

 パタパタと廊下を駆ける音がして、風音が飛び出してきた。