生まれてから一度も鏡を覗いたことのない由椰にはわからないが、右側の金眼はときどき鋭く光っているように見えるらしい。村の人たちからは「呪いの瞳だ」と言われて不気味がられた。

 幼い頃に病気で死んだ母は、由椰のことを可愛がり慈しんでくれたが、そんな母も、由椰のオッドアイについてはつねに気にかけていた。

『外に出るときは、なるべく右側の目は隠しなさい』

 外に出るとき、母は由椰の金色の右目を前髪で覆うように隠した。

 これは、人に見せてはいけないもの……。

 幼い頃から、そんな刷り込みをされてきた由椰が、自ら右目を人前に晒すことはない。けれど、生贄として神無司山の祠に閉じ込められる前、化粧を施され、額を晒すようにして髪を結われため、今は右目を手で覆う以外に隠しようがなかった。

「見苦しいものをお見せして、申し訳ございません……」

 膝を折って居住いを正すと、由椰は三人の男たちの前で頭を垂れた。

「何を言っておられるのですか。烏月様と同じ色のその瞳こそ、あなたが伊世様であるなによりの証拠ではないですか……! ですから、どうか、お顔をあげてください」
「烏月様の許可なく勝手なことをするな。無礼だぞ、アホ狸」

 由椰の顔をあげさせようとした栗毛の男を、紫の瞳の男が冷たい目をして制する。

「誰がアホだ。お前だって見ただろう、この方の瞳の色を。この方は、間違いなく伊世様だ」

 栗毛の男が言うと、目の前で跪く由椰のことをじっと見つめていた金眼の男が、ゆるりと首を横に振った。

「いや……、違う」
「ですが、烏月様……!」

 金眼の男は、名を烏月というらしい。栗色の髪の男が納得のいかない目で訴えると、烏月が肩をすくめて息を吐いた。