由椰がバタバタと足を動かしていると、
「暴れるな、落ちるぞ」
と、烏月に言われ、なおのこと恐ろしくなる。
「ど、どうか落とさないでください……」
「ならば、しっかりとしがみついていろ」
震える声で訴える由椰の耳元で、烏月が囁く。
言われるままに、由椰が烏月の肩にぎゅっと腕を回すと、烏月の飛翔速度が加速した。
自分に存在意義などないと思っていた由椰は、麓の村から生贄として差し出されたときも、人の世に戻るためのお清めを受けているときも、自分の命が消えることに恐怖は感じなかった。
けれど、銀髪の男に食われかけたときや、落ちればどうなるかわからないという今の状況で、ものすごい恐怖を感じる。
烏月にしがみつきながら、自分は思っていた以上に生きることに執着があったのだと、今更ながら気付かされた。
(私は本当は、由椰としてまだ生きていたかった……? だから、眠ったまま三百年も生きながらえ、人の世に戻れずにいるのでしょうか……)
しばらく雲の中を飛んだのち、烏月が由椰を抱いて降り立ったのは、大松の屋敷の祠のそばだった。