「烏月の屋敷には鴉と狸のほかは誰も立ち入れず、誰も噂の真偽を確かめることはできなかったが……。こんなところで出会うとは幸運だ。なぜ、屋敷から出てきた? それとも、よそ者嫌いの烏月に見捨てられたか?」

 ニヤリとしながら訊ねてくる男に、由椰は何も答えられずに目を伏せた。

 不躾な態度の男の言葉を認めたくはないが、彼の言うとおり、「よそ者」の由椰は烏月に見捨てられてしまったのだ。

「そうか。ならば、遠慮なく喰らってやってよさそうだな。頭の先から足の先まで、余すことなく俺がお前を喰ってやる」

 ギラリと赤く目を光らせると、男が洞のある木の根元へと由椰の体を押し倒す。

「嫌っ……」

 由椰が悲鳴をあげたとき、あたりに突風が吹き荒れ、バリバリッとものすごい音がして雷が落ちた。

 次の瞬間、

「ぎゃあーっ!」

 と痛々しい悲鳴が響いて、由椰を取り押さえていた銀髪の男が吹き飛ばされる。