大鳥居の外に出た由椰は、木々の乱立する山の中をさまよい歩いていた。

 神無司山の麓の村で育った由椰は、山道にもそれなりに慣れているつもりだった。幼い頃は母と山菜を採りに山に入っていたし、山の中腹にある小さな祠に年に数回お詣りにも行っていた。

 それが、今は自分がどの方向に進んでいるのか、右も左もわからない。烏月の屋敷を出たあと、ひとまず山の麓を目指そうとしたが、二神山の中は想像以上に荒れていて、前に進むことも困難だ。

 地面には、木の根っこが盛り上がって飛び出てきているところがいくつもあって、躓いて引っかかる度に、草履の足にすり傷が増える。

 おまけに天候も最悪で、最初は遠かった雷鳴が徐々に近付いてきていた。湿気の孕んだ空気に、雨の匂いが混じる。本格的に雨が降り出すのも、時間の問題だろう。

 ただでさえ視界の悪い山道で、雨が降り出せば、さらに歩くことが困難になる。

 由椰はいったん麓を目指すことを諦めて、雨から身を守れる場所を探すことにした。

 足場の良い道を選びながらしばらく進んでいくと、大きな木の根元に、由椰がしゃがめば隠れられそうな洞を見つける。そこに身を隠そうとしたとき、由椰の目の前をざざーっと黒い影が横切った。