烏月に言われた「よそ者」という言葉が、思っていた以上に由椰の胸を刺すのだ。
風夜に言われたときは、ただ悲しい気持ちになっただけだったが、烏月に言われると、本来の自分は屋敷に馴染むことのない「よそ者」なのだという事実を認めるしかない。
(烏月様が私をここに置いてくれていたのは、神様としてのご慈悲だ。私は本来、ここにいてはいけない)
ぐちゃぐちゃになった供物を手拭いに包んでまとめると、由椰は祠の向こうに立つ大鳥居をじっと見つめた。
穏やかな晴れた空が広がる屋敷の敷地内とは違い、大鳥居の向こうには先の見えない真っ暗な闇が広がっている。
(どのみち、私には居場所などないのだ……)
大鳥居の先を見つめながら、由椰は、ゆらり、と立ち上がった。大鳥居の向こうの闇が、由椰を誘っているように思えたのだ。
「よそ者」の自分が、長くここへ留まることは許されない。
それならば……。
大鳥居のほうへと、一歩、二歩と進んでいく。向こうに広がるのは、木々の乱立する一寸先も見えない真っ暗な闇。
大鳥居の手前で立ち止まった由椰に、敷地の外側から吹き込む冷たい空気が、そろそろと纏わりついてくる。
ここから一歩踏み出せば、もう戻って来られないだろう。頬を撫でる冷たい空気に、そんな予感がした。
由椰が戻らなければ、風音は心配するかもしれない。
由椰が屋敷のほうを振り返ろうとしたとき、外から吹き込む冷たい風が、酒瓶で傷付けてしまった指先を突き刺してきた。
『この屋敷に、よそ者の居場所はない』
鈍い痛みとともに、由椰の耳に烏月の声が蘇る。
(そうだ……。私はよそ者……。この屋敷でも、麓の村でも……)
由椰の足が、大鳥居を跨ぐ。そのまま暗闇に引き摺り込まれるように、由椰は荒れた山道へと足を踏み入れた。