「それが、余計なことだと言っている」
驚いて目を見開く由椰に、烏月が低い声で凄む。由椰を睨む烏月の金色の瞳は、鋭く暴力的だった。
「泰吉に何を吹き込まれたか知らないが、おれには人間からの供物も感謝も祈りも必要ない。土地神としての力など、これ以上望んでいない。人の世に戻れるまではと思い情けをかけたが、余計なことをするなら出て行け。この屋敷に、よそ者の居場所はない」
暴風が吹き荒れるような激しさで由椰に怒鳴りつけると、烏月が屋敷へと戻っていく。
屋敷の扉がピシャリと閉じられる音が、由椰を完全に拒絶していた。
きゅっと唇を噛むと、由椰は地面に手拭いを敷いて、膝をつくと、ぐちゃぐちゃになった供物をひとつにまとめた。
割れた酒の瓶を触ったとき、尖ったガラスの先で指を切る。
「痛い……」
傷口から流れる赤い血を見て思わずつぶやく由椰だったが、実際にズキズキとする痛みを感じるのは怪我をした指先ではなく、左胸のあたりだった。