(そういえば、供物を捧げるだけでなく、祠のお掃除も烏月様の力になるのですよね……)
泰吉がそんな話をしていたのを思い出した由椰は、本格的に祠の拭き掃除を始めた。
夢中になって掃除をしているうちに、風音に「早く戻る」と約束したことなど忘れてしまう。
目に付く汚れを手拭いで全て拭き取って、ふーっと息を吐いたとき、ふいに周囲の気温が少し下がったような気がした。
ぶるりと震えながら着物の袖に手拭いをしまう由椰の耳に、風の音と混ざって低い声が聞こえてくる。
「妙に胸がざわつくと思えば、お前の仕業か」
振り向いた先には烏月が立っていて、由椰のことを殺気だった目で見ていた。
これまで由椰の前であまり感情を見せなかった烏月が、どういうわけか、今は怒っているらしい。
「申し訳ありません……。私はただ……、祠に供物を捧げて、少しお掃除をさせていただいただけです……」
「そのようなことは頼んでいない。余計なことをするな」
「ですが……。人里のものを祠に捧げたり、祠を綺麗にすることが烏月様の力になると聞きました。この屋敷においていただいているお礼に、私も何かできることがあればいいと思って、今日は釜飯のおにぎりを作ったのです。よかったら、召し上がってください」
由椰が祠にささげたおにぎりの皿を取って差し出すのを、烏月はふいと顔を背けて拒絶する。