しばらく不思議な気持ちで大鳥居の向こうを見つめてから、由椰は小さな木造の祠へと歩み寄った。
由椰の前に泰吉も供物を捧げに来ていたのか、祠には新しい酒の瓶と小さな紙の箱が置いてある。そのなかには、由椰が見たことのない食べ物が透明な紙にひとつずつ包まれて入っていた。なんとなく、由椰の母が生きていた頃に一度だけ連れて行ってもらった町の市場で見たビスケットと呼ばれていたものに似ているような気がする。
今度、泰吉に会ったときにその名前を聞いてみよう。そう思いながら、由椰はきのこと山菜の釜飯で握ったおにぎりを祠に置いた。
「今日も私をここにおいてくださり、ありがとうございます」
祠の前で手を合わせると、烏月の顔を思い浮かべて感謝を述べる。
由椰が烏月と顔を合わせた回数はまだ少ない。
だが、目を閉じて烏月のことを思えば、由椰を見つめる金の瞳もどこか憂いを帯びた美しい顔を瞼の裏にくっきりと鮮明に描くことができるから不思議だ。
長い時間をかけて感謝の祈りを捧げてから、目を開ける。ふと見ると、供物を置いた祠の台座の淵に汚れがついていた。それが気になり、着物の袖から手拭いを出して拭く。ひとつ汚れを取ると、別のところにある汚れが気になる。