泰吉と風夜が食事を終えて部屋を出て行くと、由椰は釜に残った釜飯でおにぎりを作った。

「風音さん、少し外に行ってきます」

 おにぎりをふたつ載せた皿を手に、風音に声をかける。

「ご一緒しましょうか」

 風音が訊ねてきたが、祠の場所は屋敷を出てすぐだ。風音に付き添ってもらうまでもないと思い、由椰は小さく首を横に振った。

「大丈夫です。これを祠に捧げて、少しお祈りをしてくるだけなので」
「わかりました。そのあいだに、私はここを片付けておきますね」

 風音が食器を洗ってくれるようで、とても助かる。

「ありがとう。なるべく早く戻ります」

 由椰は風音に頭を下げると、おにぎりの皿を大切に抱えて屋敷の玄関へと向かった。

 由椰が来た頃、屋敷は烏月の神力で外からの侵入者を拒んで複雑な作りになっていた。だが、最近は由椰が屋敷の外へと自由に行けるように由椰の行動範囲内の屋敷の構造は簡易になっている。

 風音が烏月に頼んで構造を変えてもらったようだが、居候の身の由椰には彼の小さな配慮が嬉しかった。だから、これから捧げにいくおにぎりには、由椰からの日頃の感謝の意味もこもっている。

 外に出ると、大鳥居の内側にある烏月の屋敷の下だけが気持ちよく晴れていた。大鳥居の外側の空には、どんよりとした灰色の雲が広がっていて遠くのほうでピカッと稲妻が光っている。

 屋敷の敷地内は烏月の力で一定の気候が保たれているそうだが、大鳥居から一歩外に出れば雨が降り、天気も荒れているのだろう。

 ここだけが居心地の良い優しい空気に包まれていて、外の世界とは断絶している。