風夜は、七日間の泉でのお清めで由椰が人の世に戻ることができなかったことにあからさまにガッカリしていたから、嫌われているものだと思っていたのだ。
由椰は泰吉と風夜を座敷に案内すると、風音とともに食事を運んだ。
「わあ〜! 美味しそうですね! 誰かの手作り料理なんて、ひさしぶりだ。いただきます!」
泰吉が、目を輝かせながら箸を手に取る。
「お口に合えばいいですが……」
麓の村にいた頃は毎日のように料理を作っていたが、誰かに食べてもらうのは由椰にとってもひさしぶりのことだ。
「由椰様、めちゃくちゃ美味いです!」
由椰が少しそわそわしていると、泰吉が口の中を釜飯でいっぱいにしながら、モゴモゴと言う。
「おい、狸。行儀が悪いぞ」
泰吉の食べ方に眉をひそめる風夜だったが、彼も由椰の料理には満更でもなさそうな顔をしていて。由椰は、ほっと息を吐いた。
「喜んでいただけてよかったです」
由椰ができることは、あまり多くない。だから、自分が役に立てることがひとつでもあってよかったと思う。
小さく微笑むと、由椰も小上がりの座敷に腰をおろした。