「井戸に汲みにいかなくても水が出てきたり、薪がなくても火が燃えたり、食べ物を新鮮なままで保存できたり……。この屋敷の台所にあるのは、私が暮らしていた頃にはなかったものばかりですね」

 水道やガスコンロ、炊飯器、冷蔵庫など。由椰にとっては、見るもの全てが新鮮で不思議だ。それらのものは全て、定期的に人里に降りている泰吉が持ち込んできたものらしい。

 風音にいろいろと器具の使い方を教えてもらって由椰が作ったのは、山菜とキノコの釜飯と根菜たっぷりの団子汁だった。

 炊事場に釜飯の炊けるいい香りが漂いはじめた頃、泰吉がやってくる。

「由椰様、食事をいただきに来ました」
「お待ちしていました、泰吉さん。ちょうど今、釜飯が炊けたところです。すぐに器によそうので、座って待っていてください。風音さんに、向こうの部屋に座卓を用意してもらったので……」

 由椰が炊事場の小上がりの和室に泰吉を案内しようとしたとき、彼の後ろに隠れるようにして風夜が立っているのが見えた。風夜と顔を合わすのは、烏月の屋敷に来て七日目に泉でのお清めをしてもらって以来だ。

「風夜さんもいっしょだったのですね」

 由椰が声をかけると、風夜が気まずそうに顔をそらす。

「泰吉にしつこく誘われて仕方なく……」
「そうでしたか。たくさん作ったので、風夜さんも召し上がってください」

 たとえ泰吉に引っ張ってこられたせいだとしても、由椰には風夜が来てくれたことが嬉しかった。