「人の世では、もうかまどで米は炊かないのですか?」
「私はあまり人里に降りることがないので詳しくありませんが、一般の家庭ではこの炊飯器という機械が使われているんだそうです。でも、今日は釜で炊きましょう。私も兄も泰吉さんも、釜で炊いたごはんは大好きです」

 風音は、にこっと微笑むと、由椰を不思議なカタチの器具がついた台の前へと導いた。

「由椰様、ここに釜をのせてください」

 風音に言われて、由椰が台の上に釜を置く。

「こう、ですか?」
「はい。では、火をつけますね」

 風音が台の下についている小さな丸い突起をつまんで捻ると、カチカチッと音がして、ボゥッと火が点いた。驚いて一歩後ずさる由椰だったが、すぐに釜の下で火が燃えていることに気が付いて目を瞠る。

「今の一瞬で火が……?」

 料理をするにも風呂を沸かすにも、薪を燃やしていた火を起こしてきた由椰には、目の前で起きたことが俄かに信じられないとだった。