由椰の金と青の色違いの瞳が、泰吉にかつての主の姿を思い出させる。生まれてすぐに母親を失い、住処の洞穴の中で空腹と寒さに震えていた泰吉を見つけて拾ってくれたのが、伊世だった。

 泰吉にとって、伊世は救世主であり、母であり、その姿が消えたとしても生涯忠誠を誓う大切な主人だ。そんな伊世を思わせる目で見つめられては、抗おうにも抗えない。

「由椰様がそこまで言うなら……」 

 最終的に折れた泰吉だったが、由椰が下手に祠に触れれば、烏月が機嫌を損ねるかもしれないという懸念はあった。

 そもそも、烏月は泰吉が人里から供物を運んでくることをあまりよく思っていない。

 昔はそうではなかったが、伊世が消えてからの烏月は、人から信仰されることを避けている。それでも泰吉が人里から運んできた供物を捧げ続けるのは、烏月の存在を消したくないと願う泰吉のエゴでしかない。

 烏月に叱られて小さく尾を丸める自分の姿を想像して泰吉が苦笑すると、

「ありがとうございます、泰吉さん」

 由椰が目を細めて嬉しそうに微笑んだ。その笑顔が、泰吉の胸に郷愁を誘う。

 由椰は伊世の生まれ変わりではないと烏月は言うが、泰吉は由椰との会話や彼女のちょっとした仕草に、伊世の気配を感じてならない。

 由椰を喜ばせることで烏月から叱責を受けることになるなら、それは仕方がないことのように思えた。