現世への未練が見つからなければ、由椰は人の世に還れない。烏月が由椰のことをいつまでも屋敷においてくれるつもりかはわからないが、このまま烏月が消えてしまえば、由椰も居場所を失ってしまう。

 泰吉だけでなく、困るのは由椰も同じだ。それならば。

「私に祠のお掃除や供物の用意を手伝わせてください」

 由椰がそう言うと、泰吉と風音が驚いて目を丸くした。

「気持ちは嬉しいですけど、由椰様を人里に行かせるわけには……」
「では、泰吉さんが運んできたものをわたしに調理させてもらうのは? だめでしょうか……?」

「だめではないですけど……。作ったところで、烏月様が召し上がるかどうかはわからないですよ」
「でも、人里のものを供物として捧げることには意味があるのでしょう? 屋敷に置いてもらう以上、わたしも何かお役に立ちたいのです」

 両手を握り合わせた由椰に上目遣いで懇願され、泰吉は困って頭の後ろを掻いた。