そろそろ目覚めなければ——。
そう思うが、長い間眠っていたせいか、由椰の身体はすぐには動かない。手足がゆっくりと弛緩していくのを待っていると、由椰の額になにかが触れた。わずかなぬくもりを感じるそれを、由椰はなぜか、ひどくなつかしく思った。
「ふたりとも、つまらぬことで争うな」
やわらかな低い声がため息交じりに制すると、周囲が少し静かになる。
「申し訳ございません、烏月様」
ふたりの男たちの、謝罪の声が重なる。
「この娘はただの人間だ。だが、泰吉の言うように、わずかばかりの気配は感じる……」
「気配とは、伊世様のですか?」
「そうだ。それも、三百年前、伊世が姿を消す直前にまとっていた気配にとても近い」
「では、この娘は姿形を変えて戻られた伊世様なのでは……」
「いや。神は、消えてしまえば蘇らない」
「では、この娘はいったい……」
「考え得ることとして――、この娘は三百年前になんらかの形で伊世の加護を受けたのだろう。そのあと洞窟の中で眠りについて放置されていたのを、この度、お前たちに発見されたというところだと思うが……」
「ではこの娘は、三百年もの間、姿形を変えずにあの洞窟で眠っていたということですか?」
「おそらく。これまでは伊世の加護で存在自体を隠せていたのだと思うが、年月が経ちその力が弱まってきたから、泰吉が気付けたのだろう」
「そうでしたか……」
「気付いたのが泰吉で幸いだったな。もし、おれの統治しきれていない放浪者のあやかしに気付かれていれば喰われてしまっていたかもしれない」
真上で繰り広げられる男たちの会話の内容は、いまいち要領を得ない。彼らの声をぼんやりと耳に受け止めながら、由椰はゆっくりと目を開けた。