『誰か他人のために魂を捧げる……など、どうかしている。消えてしまいたいのは、おれのほうだ。もう何百年も前から……』

 そうつぶやいて、美しい金の瞳を曇らせた烏月。その表情は、ひどく哀しそうで孤独に見えた。

「伊世様に続いて烏月様まで消えてしまったら、拾われっ子のオレには居場所がなくなるんですよ。って言ったら、自分勝手に聞こえるけど、風夜も風音も、それにオレを拾って育ててくれた伊世様だって、烏月様が消えることを望んでない。人里から運んできたものは少しだけど烏月様の力の源になるので、こうやって定期的に祠に供物を備えて綺麗にしてるんです」

 泰吉はそう言うと、ふわふわの尾で祠の汚れを拭いて、祠の前で手を合わせた。

 祠は、神様の分身でもある。人が祠を綺麗に掃除したり、祈りや供物を捧げることで、神様は力を得るのだという。それを聞いた由椰は、泰吉の隣で祠に手を合わせた。

 目を閉じてから、何か願うことがあっただろうかと考える。

 下を向いてしばらく考え込んだあと、

「私の未練が見つかりますように」

 と、心の中で祈った。