「人里に降りられたら、きっと驚くと思いますよ。最近の人の世は、由椰様が生活されていた三百年前とは様変わりしていて便利なものが増えているので。灯りもスイッチひとつで点くようになったし、火だって一瞬で起こせる。羽を使わなくても、空が飛べる乗り物だってあります」
「空を……?」

 鳥以外で、空を飛べるものがあるなんて……。泰吉の話は由椰が想像できる範囲を超えていて、頭の中にイメージを描くことすらできない。

「泰吉さんは、人里によく行かれるんですか?」
「月に一度か二度、人の世の偵察も兼ねて、烏月様への供物を探しに行ってます。昔は、この祠にもたくさんの人がお詣りに来たり、供物を捧げに来てたけど、最近は土地神信仰も薄れて、こんな山奥まで来てくれる人はいませんから。烏月様が外の者を遠ざけているっていうのもあるけど、祠を放っておくと烏月様自身が消えてしまうので」

「消える……?」
「神無司山の伊世様が消えてしまったことを話したでしょう。人々からの信仰が減っているだけでなく、外の者を遠ざけるようになった今、実は、烏月様もとても危うい状態なんです」

 首をかしげた由椰に、風音がそんなふうに教えてくれる。

「おそらく烏月様は、もう神様でいることをあまり望んでいないんです。このまま、いつ消えたっていいと思ってる……」

 少し悲しそうな目をする泰吉の言葉を聞いて、由椰は初めて烏月に会ったときのことを思い出した。