すぐに後を追いかけた由椰だったが、ふと泉の様子が気になって振り向いた。
さっきまで烏月のいた泉の水面は、木々の隙間から差し込む太陽光に照らされて神秘的な輝きを放っている。
泉を見つめながら、由椰は最後にお清めを受けたときに聞こえてきた不思議な声のことを思い出していた。
(私が人の世に戻れなかったのは、泉の力に呼び止められたせいなのでは――?)
そんな思いが胸に過ぎったとき、
「由椰様? どうかされましたか?」
だいぶ先まで来た道を戻っていた風音が由椰を呼んだ。
「いえ……」
泉に背を向けた由椰は、急ぎ足で風音を追いかける。そのときにはもう、胸に過ぎった思いは風にさらわれたように消えてなくなっていた。