「烏月様……」
風音が、泉の前で膝をついて頭を下げる。その向こうに見えた烏月の姿に、由椰はおもわず息を呑んだ。
泉の中に足首まで浸かり、空を仰いで祈るように目を閉じる烏月に、森の木々の隙間から柱状の光が降り注いでいる。
空から泉に降臨してきたかのように見える烏月の姿は、神々しく、美しかった。
由椰が呆然と立ち尽くしていると、気配に気付いた烏月がゆっくりと振り返る。
「風音か……」
「はい」
「この頃、また少し、山の気が乱れている」
「そうですか……」
「大鳥居の外に出るときは気を付けろ。特に、人の娘の気配を放浪者どもに気付かれぬように」
「はい」
風音が深く頭を下げるのを確認してから、烏月が由椰に視線を向ける。わずかに首を傾けた烏月の左耳で、金色の耳飾りがキラリと光る。
由椰がその輝きに気を取られているうちに、烏月が泉から上がってきた。