「お天気がよくて気持ちがいいですね」
由椰が額に手をかざして空を見上げていると、風音が振り向いた。
「はい。屋敷の敷地内の天気は、烏月様が一定の気候になるように保たれているのですよ」
「神様というのは、すごいのですね」
漆黒の髪と美しい金色の目をした烏月の姿を思い出して、由椰が感嘆の息を漏らす。
「泉のほうに回ってみますか?」
風音に誘われて、大松の屋敷の裏にある泉に向かってゆっくり歩く。
早朝のお清めで泉を訪れるときは、まだ薄暗くて周りの景色や足元がよく見えなかった。どこか得体の知れないところへ連れて行かれるようで少し心許なかったが、太陽の照らす時間帯だと、まるで違う場所を歩いているような心地がする。
屋敷を囲む木々が風で爽やかに揺れる音は耳に心地よく、小鳥たちの歌う声に心が和む。
烏月の屋敷を取り囲む森は、穏やかで美しい。ここにあるもの全てをやさしく包み込んでいるようなその姿は、烏月そのものであるように思えた。
木々の緑の香りを吸い込みながら、由椰が泉のほうへ一歩一歩足を進めていると、前を歩いていた風音がふいに止まる。