烏月の屋敷での生活は、一日の時間の流れがとてつもなくゆっくりだった。
麓の村にいるときは、朝から家中の床を拭いて回り、洗濯をし、料理を手伝い、家畜の世話をし、風呂に火を起こし……。とにかく、休む間もなくすることがあった。
だが、烏月の屋敷で、由椰は自由だ。
屋敷への長期的な滞在が決まってからは夜明け前のお清めもなくなり、好きな時間に起きて好きな時間に眠ることができるようになった。
最初は、のんびりとした生活を楽しんでいた由椰だったが、何日か過ごすうちに、これでいいのかという焦りが出始めた。
人の世に戻ることのできなかった由椰に、烏月はしばらく屋敷にとどまるように勧めてくれた。
だが、それは永久に烏月の屋敷に居ても良いという意味ではない。人の世に戻るまでに、少しの猶予が与えられただけのことだ。
烏月がいつまで由椰を屋敷に置いてくれるつもりなのかはわからないが、由椰も本来在るべき場所に戻るための努力をしなければならない。
そう思った由椰は、風音に頼むことにした。