洞窟の中で運良く生き延びたあと、烏月に人の世に還れと言われたが、次の世に特別な期待は持てなかった。
できることならば、いい思い出などない人の世には還らず、消えてしまいたい。由椰の心のどこかに、そんな気持ちがあったような気がする。
だから、本来在るべき場所に行くこともできないのか。
「この娘の処遇はどういたしましょうか」
(何処へ行くこともできない。ここから消えることすらできない私は、どうすればよいのでしょう)
烏月に向かって訊ねる風夜の後方で、由椰はきゅっと唇を噛む。そんな由椰を見下ろして、烏月は静かに息を吐いた。
「しばらく、ここに置いて様子を見るより仕方ないな」
烏月の言葉に、由椰は驚いて顔をあげる。
「良いのですか?」
烏月の言葉に驚いたのは、風夜も同じであったらしい。彼の紫の瞳は、主人を前に大きく見開かれていた。