由椰が再び烏月と顔を合わせることになったのは、大松の屋敷に連れてこられて九日目のことだった。

 風夜と風音に連れられてきた部屋で烏月の前に跪くと、輝く金の瞳をした美しい神様が、由椰のことをじっと見おろしてきた。

「七日間、泉の水で清めても、人の世に戻れない――、か」

 抑揚のない声で言う烏月に、「さようにございます」と風夜が申し訳なさそうに頭を下げる。

「ふたりと泉の力を以てしても戻れないということは、この者のほうになにか原因があるのかもしれない。現世でなにか悪いことをして業を背負っているか、現世に未練を残しているか、あるいは……。現世に未練がなさすぎるのか……」

 由椰をヒヤリとさせたのは、烏月の最後の言葉だった。

 誰に必要とされることなく生きてきた由椰には、たしかに人の世での暮らしに未練はなかった。

 生贄として麓の村を出たときも、死ぬことが悲しいとも苦しいとも思わなかった。

 自分など、いてもいなくても変わらない。命を与えて慈しんでくれた母にだけは申し訳ないと思ったが、生贄として死ぬことが自分の価値であるならそれでいいと思った。