この小さな泉は、不思議なことに深さが一定していない。

 足を踏み入れた瞬間は、由椰の足首がようやく浸かるくらいの浅さなのに、しゃがんで身体を沈めようとすれば、由椰の肩までどっぷりと浸かれるくらいの深さになる。

 由椰が不思議な泉に身体を沈めると、風夜と風音が祈祷を始めた。

 風夜の低い声に風音の高く透明感のある声が重なる。それを聞きながら目を閉じると、由椰の身体は泉の中でふわふわと浮かんでいるような心地がした。

(私はこのまま、消えてしまうのでしょうか)

 ぼんやりとしているうちに、少しずつ風夜や風音の声が遠くなっていく。

『お前は、死にたいのか?』

 思考が鈍くなっていく由椰の耳に、ふと、烏月の声が蘇ってきた。

 由椰としての人生の最期に思い出すのが、ほかの誰でもなく、たった一度会っただけの神様のことだなんて。

 十六年に満たないほどではあったが、それにしても自分の人生はなんとも希薄なものだっただろう。