風音に導かれた由椰が連れて行かれたのは、大松の屋敷のそばにある泉だった。山の木々に囲まれた小さな泉から湧き出ている水には、魂を清める力があるらしい。

 泉のそばでは、白衣に白の紋様の入った袴姿の風夜が、由椰のことを待っていた。薄闇の中に浮かぶ風夜の姿は、まばゆく美しい。

「お待たせいたしました。兄様」
「では、始めるか」

 風音が頭をさげると、風夜が泉の周りを静かに歩き移動する。

 これから、由椰は泉の中に身体を沈めて魂を清める。

 由椰のように、現世に長く留まり過ぎた魂を泉の水が浄化するのにかかる時間は七日ほど。魂を清めるための儀式は夜明け前に行うことが通例で、風夜や風音の一族の者が、清められた魂が人の世に戻るところまでを見届ける。

「由椰様」

 風音に促され、由椰は泉の中に足を入れた。泉の水の温度は肌を切り裂くほどで、由椰の身体はつま先から冷えていく。

 もう七日目になるが、泉に最初に足を踏み入れたときのこの感覚には未だに慣れない。

 由椰は身体を震わせると、覚悟を決めてゆっくりと身体を水の中に深く沈めていった。