烏月の屋敷は、二神山の奥深くにある大松の下にある。
何百年も前に建てられたという大鳥居の内側にある屋敷は、烏月の神通力によってうまく隠されていて、外から来た人間には古くて小さな社にしか見えない。
だが、実際には広くて部屋数も多く、各方面に伸びた廊下がいくつもあり、構造も複雑で、屋敷の奥にある烏月の部屋には簡単にたどり着けないように細工がされていた。
烏月以外で屋敷の中を少しも迷わずに歩き回れるのは、妖力を持つ風夜と風音、鼻の効く泰吉くらいのもので、それ以外の者が不用意に歩き回れば、迷って屋敷から出られなくなる。
何百年か前に、烏月が屋敷をそういう構造に作り変えたらしい。
「烏月様は、もう何百年も前から外の――、特に人の世との接触を絶っているのです」
由椰がここに来て初めてのお清めを受けたとき、風音が烏月についてそう説明してくれた。
烏月は天狗の中でも最も強い神通力を持つ大天狗で、千年以上も昔から二神山の奥にある大松の下の屋敷に住みつき、二神山の周囲に暮らす人々の生活を見守ってきた。
天気を操り、時に人の前に姿を現し助ける。そんなことをしているうちに、烏月は人間から「神様」として慕われるようになり、大松の屋敷のそばには烏月を祀るための大きな鳥居が建てられた。