由椰と見つめ合う烏月の右耳で、彼女と揃いの黒瑪瑙の石が艶やかに光る。互いの右耳と左耳に分け合って付けた黒瑪瑙の耳飾りは、由椰が烏月に贈ったものだ。
屋敷に野狐が侵入し、由椰を失うかもしれない恐怖を味わった夜。烏月は一度は返してしまった耳飾りを受け取り、その片方を由椰に渡した。
『おれが消えるまでは、ここで共に生きてほしい』
そう告げた烏月に、由椰はふわりと微笑んだ。
『烏月様が望まれるなら、ずっとお側におります。私がいる限り、烏月様が消えることはありません』
柔らかな笑顔を浮かべながら力強く宣言する由椰の言葉を聞いて、烏月はできるだけ長い時を、彼女と共に生きたいと思った。
伊世が姿を消してから、ずっと「消えてしまいたい」と願っていた烏月にとって、由椰は何百年かぶりに心に生まれた希望だった。
幽世に留まることになった由椰との婚礼の儀を開くことを決めたのも、何百年も閉じてきた大鳥居を外に開いたのも、由椰と共に生きていこうという烏月の決意の証だ。