「風音はなぜ、風夜でなくお前を呼びに寄越したんだ……」
「風夜は参列者の受付対応中なので」

 ボソリとつぶやく烏月の横で、泰吉がニヤリとする。

 そうやって、烏月を揶揄うようにくっついてきた泰吉も、花嫁のいる部屋の前に着くと、一歩下がって膝をついた。

「おめでとうございます、烏月様」

 恭しく頭を下げる泰吉に、烏月は小さく頷いて礼を言うと、牡丹の絵が描かれた襖の戸を軽く叩いた。

「……、入ってもいいか」

 平静を装うつもりが、襖の向こうに訊ねる烏月の声が少し掠れる。

「どうぞ、お入りください」

 烏月が襖を引くと、白無垢姿の由椰がおもむろに振り返る。烏月を見て少し恥ずかしそうに微笑む由椰は、とても可愛く、美しい。

 烏月が佇み、由椰に見惚れていると、

「私は一度失礼いたしますね」

 由椰の準備を手伝っていた風音が、すすっと部屋を出ていった。

 今日、烏月と由椰の婚礼の儀が行われる。

 風音が去ったあとも、烏月が襖の外で立ち尽くしていると、由椰が不安そうに目を伏せた。