「相変わらず騒々しいな」

 烏月が、足元に跪く泰吉を見下ろして苦笑いする。そんな主の顔を見上げ、泰吉が嬉しそうに口角を引き上げた。

「申し訳ありません。今日は喜ばしいハレの日なので。花嫁様の準備が整ったそうですよ、烏月様」

 泰吉の報告に、烏月はいつもと変わらぬ声で「そうか」と頷く。それから、ゆっくりと廊下を歩き出した。

「そうか、って。それだけですか? もっと嬉しそうな顔を全面に出されたらいいのに」

 すぐに立ち上がった泰吉が、パタパタと烏月の後をついてくる。泰吉の騒がしいところは、子狸のときから少しも変わらない。

「そう言うお前は、もう少し年相応に落ち着いたほうがいい」
「烏月様こそ、今日くらい、年甲斐もなくはしゃいでも良いと思いますよ。襖の隙間から後ろ姿がほんの少し見えましたが、今日の由椰様は特別美しいでしょうね」
「なぜお前がおれより先に花嫁を盗み見ているんだ」

 楽しそうに笑う泰吉を、烏月がじろりと睨む。だが、主のそんな表情を見ても、泰吉が怯むことはない。

「あれ、烏月様。もしかして嫉妬しておられるんですか?」
「……」

 琥珀色の目を悪戯っぽく細める泰吉に、烏月は言葉を返すのも面倒になる。