烏月が三百年以上ぶりに大鳥居を外に開いたのは、桜の花びらが舞うハレの日だった。

 まもなく始まる婚姻の儀を前に、参列者のあやかし達が集まり始めていて、敷地内は騒がしい。

「兄様、桜がきれいだよ」
「こら、そっちは入っちゃだめって!」

 子どもの声が聞こえて、烏月が縁側から庭を覗くと、鴉天狗の子どもがふたり、驚いたように振り向いた。

 兄妹なのだろう。青い目をしたふたりのあやかしの子どもは、互いによく似ている。

(何百年も前の風夜と風音があんなだったな)

 なつかしく思って烏月がふっと笑うと、兄のほうが妹の手を握って頭を下げた。

「勝手に入って申し訳ありません。烏月様……!」

 烏月は子どもたちのことを知らないが、彼らは金色の目をした烏月がこの屋敷の主であることを知っているらしい。

 妹を庇うように背中に押しやる兄の姿に、烏月は金色の目をすっと細めた。

「今日はハレの日だ。気の済むまで、花を見ていくといい」

 烏月はそう言うと、縁側の奥へと引っ込んだ。

 襖の戸を開けて部屋を出ようとすると、

「烏月様!」

 向こうから廊下を駆けてきた泰吉が、烏月の前に滑り込んできた。