(やられる……っ!)

 狐の爪が空を切る音に、由椰はぎゅっと目を瞑る。

(こんな形で「由椰」としての最期を迎えることになるなんて……)

 このまま烏月に会えずに逝くのかと思うと、由椰は死んでも死にきれないような気がした。

(烏月様……)

 由椰が心の中で烏月の名前を呼んだとき、突然、強い風が吹き、晴れていたはずの夜空に、バリバリッと激しい雷鳴が轟く。

「由椰……!」

 雷の音に混じって、烏月の呼ぶ声が聞こえたような気がする。ハッとして目を開けると、足が地面から離れ、由椰の身体は突風に飛ばされるように攫われた。

 次の瞬間、眩い閃光が由椰を襲おうとした狐のあやかしの身体を包み、稲妻となって泉に落ちる。

 狐のあやかしを包んだ稲妻は、ドーム状の光となって輝いたあと、ゆっくりと静かに、泉の水に溶けていった。