屋敷の外に出ると、夜の空は雲ひとつなく晴れていた。空の高い位置に、金色の三日月がかかっている。
敷地内の気候は、烏月の神力で管理されている。空が穏やかに晴れているということは、今のところ烏月は無事で、与市の侵入にまだ気付いていないのかもしれない。
(烏月様……、ご無事であるなら、どうか気付いてください……)
烏月の瞳を思い起こさせる金色の月を仰ぎ見ながら、由椰は心の中で願った。
与市は、泉で神の力を得ると言っていた。不思議な泉が与える神の力がどれほどのものなのかはわからないが、与市を泉に近付けてはならない気がする。
だが与市を泉に誘導する由椰の足は止まらず、すぐに屋敷の裏の泉に辿り着いてしまった。
金色の月の光に照らされた夜の泉は、朝とも昼とも様子が違い、幻想的で美しい。
「ああ、やっと辿り着いた……。これで、俺も神になる力を得ることができる」
木々の向こうに小さな泉が見えた途端、後ろを歩いていた与市が由椰の肩を押しのけて、一直線に駆け出した。その勢いのままに泉に飛び込んだ与市だったが、すぐに「ぎゃっ……!」と悲鳴をあげて、泉から出てくる。
その姿を見た由椰は、驚いた。与市の姿をしていた男に黄金色の三股の尾が現れ、ゆらりと妖しく揺れたのだ。