警戒して後ずさる由椰だったが、与市のほうは少しの遠慮もなく部屋の中に足を踏み入れてくる。

「どうしてって、由椰が呼んでくれたんだよ。そのおかげで、結界を破ることができた」
「結界……?」
「そう。お前は烏月の弱点だ。烏月の守りの孤城は、お前を利用すれば堕とせる。あのときそれに気付いた俺は、お前に縁のある者を探して近付いた。だが、まさか、こんなに早くうまくいくとは……」

 ククッと笑う与市の唇が歪む。与市の妖しい気配に、由椰は部屋の外へ出ようと襖に向かって駆けた。

(誰か呼ばなくては……!)

 だが、廊下へと出る前に、由椰の身体は強い力で後ろに引っ張られる。背中からひっくり返った由椰は、畳に強く頭を打った。

「せっかく捕まえたのに、逃すわけがないだろう。お前には、この敷地の中にある泉まで案内してもらう。そこで神の力を得た後で、ゆっくりと喰ってやる」

 顔を歪めて笑う与市の手に額を押さえつけられ、由椰の視界がぐらりと揺れる。頭と身体が鉛のようなか重くなり、由椰の意志で動かせない。

 与市がすっと手を動かすと、由椰の身体は操られるようにして起き上がった。