目の上の手拭いをとって見れば、小さな御守りの袋が帯からはみ出てきている。祭りの夜に、与市の生まれ変わりだと名乗る男から渡されたものだ。
なんとなく持ち帰ってしまったが、魔除けの御守りだと言うので帯に挟んで身につけていた。由椰が何気なくそれを手に取ったとき、窓も開けていないのに、部屋の中に、ぞわりと冷たい空気が流れ込んできた。
不思議に思って由椰が身体を起こすと、カタリと音をたてて襖が揺れた。
「風音さん……?」
炊事場の片付けに来ない由椰のことを、風音が呼びにきたのかもしれない。由椰が襖立ち上がって襖の戸に手をかけると、誰かが外から戸を引いた。
襖の向こうに現れた人物の姿に、由椰の呼吸が一瞬止まる。
「ようやく迎えに来れた」
目の前の人物がそう言って、由椰に微笑みかけてくる。
そこに立っていたのは、祭りの夜に由椰が出会った、与市の生まれ変わりだと名乗る男だった。
「どうしてあなたがここに……?」
外の者は忍び込めないはずの烏月の屋敷に、ふつうの人間が忍び込めるはずがない。
この男はほんとうに与市なのだろうか。それとも、与市を名乗る別の者……?