部屋を仕切る襖の向こうで、コツン、コツンと床を叩く音がする。

「由椰様、おはようございます。お清めの時間でございます」

 澄んだ声に呼びかけられて、由椰は敷布の上でゆっくりと目を開けた。

 由椰に与えられた六畳の部屋には、小さな窓がひとつついている。その向こうにはまだ薄暗い紫の闇が広がっていて、朝の挨拶を聞くには早すぎる。

 由椰が神無司山の祠から烏月の屋敷に連れてこられて、今日がちょうど七日目。こうして夜明け前に起こされるのが、ここに来てからの由椰の日課となっている。

 だが、それも今日で終わりだ。

 七日目になる今日のお清めが終われば、由椰の魂は浄化され、人の世に戻ることができる。

 次に明けきらない夜の空を見られるのは、いつのことになるだろう。生まれ変わった次の世で、自分は誰かにとって価値のある何者かになれるだろうか。

 考えても意味のないことを思ってしまうのは、今日が由椰という人間としての最期の日だからかもしれない。

 らしくもなく感傷的になっている自分に自嘲の笑みを漏らすと、由椰は静かに体を起こした。