少女が祠に来た直後、住居から出ることもできなかった伊世の神力は、不思議なことに少し回復した。

 伊世の力が少し戻ったのは、少女の祈りのおかげかもしれない。

(あの少女が次に祠に来たときは、ぼたもち分の加護を与えよう)

 烏月は思ったが、それ以降、少女が神無司山の祠に現れることはなかった。

 人は結局、気まぐれだ。あの少女も、気まぐれに伊世の祠に祈りを捧げにきただけだったのだ。

 やがて伊世の神力はまた弱まっていった。そうして、烏月にも泰吉にも、誰にも別れを告げることなく、あるとき、ふっと、伊世は消えてしまった。

 人の心を信じられなくなった烏月は、伊世が消えた直後、人の世とつながる大鳥居の入り口を閉じた。人だけでなく、信頼できる従者以外の屋敷への侵入を拒否した。

 三百年前、伊世に少しの力を与えた少女のことも、長いときを生きるうちにいつしか忘れた。