「どうしてですか……?」
かろうじて、そう訊ねた由椰だが、顔を上げることはできなかった。烏月がどんな表情で由椰を見ているか想像すると怖かった。
烏滸がましくも、由椰は烏月が贈り物の耳飾りを喜んでくれると思っていたのだ。金色の目を細めた烏月が由椰に優しく笑いかけてくれるところを想像していた。それが、ただの驕りだとも気付かずに。
「理由は簡単だ。お前の魂はいつか、人の世に戻る。祭りで出会ったあの男のように、新しい生を受けることができる。ここは、お前が人の世に戻るまでの仮住まいの宿だ。だからこそ、ここに想いのあるものを残していってはいけない」
烏月の口調は穏やかだが、その言葉のひとつひとつが、鋭利な刃物となって由椰の胸に突き刺さる。
「烏月様は、初めからずっと、私が人の世に戻ることをお望みなのですよね……」
「そのほうが、お前もしあわせになれる」
「そうでしょうか……?」
「祭りで会った男とは何か縁があったようだが、自分を知る者と会ってなにか変化はなかったか?」
「……いえ。特には」
畳についた由椰の指が、微かに震える。由椰は、烏月に還された木箱を手元に引き寄せると、震える指とともに、それを手のひらの中にぎゅっと握り込んだ。