「それより、ここからが本題だ。これから一週間かけて、おれ達はお前の魂を清めて人の世に戻す」
「そこが、私の帰るべき場所なのですか?」
「そうだ。異質な存在であるお前には、今の人の世にも、おれたちの住む幽世(かくりよ)にも居場所がない。お前が三百年前に暮らしていた村も、今は存在しない」

「私がこーる……、なんとかになって眠ってしまったから、村を日照りから守ることができなかったのでしょうか」
「いや。お前のいた麓の村は、三百年前の干ばつにはやられずに生き延びた。だが、ずいぶんと前に近隣の大きな村に統合された」
「そう、でしたか……」

 風夜の話に、由椰は少し複雑な気持ちになった。
 
 由椰が生贄になろうが、なるまいが、彼女の故郷の村はいずれ消えてしまう運命だったのだ。

(だとしたら、私が存在した意味とは——)

 考え始めれば深みに嵌りそうで、由椰は自ら考えることを放棄した。

(考えてみても仕方がない。どうせ私には、初めから存在意義なんてなかったのだから)

「あの、それで……。人の世に帰るにはどうすればよいのでしょうか」
「お前の魂を浄化して、一度無に帰す」
「つまり……、私に消えろと……?」
「端的に言えば」

 突き放すような風夜の言葉に、由椰はおもむろに頷く。

「承知しました。どこにでも参ります。どのみち、私には最初から居場所なんてないのですから」

 うっすらと微笑む由椰の色違いの瞳は、どこか諦めたようにふたりの男たちを見つめていた。