「おれのほうこそ、すまない。大丈夫か?」
鼻先に烏月の吐息がかかり、由椰の心臓がドクドクと鳴る。
「だ、大丈夫です……!」
由椰が顔を赤くしてうつむくと、そのとき初めて近すぎる距離に気付いたように、烏月が後ろに身を引いた。
互いに少し距離をとって正座で向かい合うと、由椰も烏月も相手の様子を窺い黙り込む。
「……なにか、おれに話すことでもあったか」
しばらくの沈黙の後、先に口を開いたのは烏月だった。
酒の酔いも冷めてきたのか、烏月の顔からは先ほどよりも赤みが引いている。
ほとんど同じ目線の高さで烏月の金色の瞳に正面から見つめられ、由椰の胸が高鳴った。
「はい……」
烏月の問いかけに小さく頷くと、いよいよ緊張が増してくる。
「烏月様に、祭りの夜のお礼をお伝えしたくて……」
「礼なら、祭りの夜に言われたはずだが」
「いえ。言葉としてのお礼ではないのです。手鏡や、祭りの夜にくださったもののお礼を、私も何か形のあるもので烏月様にお返ししたいのです。どうかこれを、もらっていただけませんか?」
由椰が着物の袖に入れていた木箱を取り出して蓋を開けると、黒い石の耳飾りが部屋の橙色の灯籠に照らされて艶やかに輝いた。